WKWにピンときたら

2022-10-14

WKW すなわち Wong Kar Wai
ウォン・カーウァイ(王家衛)。
この名前を見て、
「あぁ〜あの香港の映画監督!」と
90年代に思いを馳せたあなた、
まぎれもなく40代以降ですね。

8月に入ってまもなく
ウォン・カーウァイ監督の代表作が
4Kレストア版として蘇り
順次公開される、という話題を
エンタメニュースで知りました。

そのラインナップに
「ブエノスアイレス」の名がありました。
スクリーンに登場したのは1997年、
それから25年目なんだそうです。

当時、私はブエノスアイレスを
2回観に行きました。たしか。
1回目は友達と。
2回目は一人で。
下高井戸の映画館で
朝早い上映でした。
なんと、そのときのチラシと
1回目の前売りチケットがとってありました。
我ながら物持ちがいい。
当時はレスリー・チョンって呼んでたんだ…

なんで2回観たのか、
そこは覚えていませんでしたが
劇中曲がものすごくよくて
すぐにサントラを買って
何回も聴いたのは覚えています。
この25年の間、たまに聴きたくなって聴いてました。

ということは、このCDも25年ものってことね…

映画冒頭に、どうどうと落ちるイグアスの滝の映像にかかる
カエターノ・ヴェローゾの「ククルクク・パロマ」。
そして当時人気のあったピアソラの絶望的に悲しい音色、
フランク・ザッパの空気を歪ませるギター、
現地のミュージシャン(?)によるアルゼンチンタンゴ、
最後は映画の原題と同名曲「Happy Together」
(これはフランクザッパライブバージョンを使用したかったけれど
叶わなかったのでダニー・チョンによるカバーとのこと)
※映画の原題「春光乍洩」、英題「Happy Together」
「ブエノスアイレス」は邦題なのです。

CDのライナーノーツを読むと
ウォン・カーウァイが苦労して
一つ一つの曲の許諾をとり
サントラを作りあげていったのがわかります。

はじめ、4Kレストアの話題を聞いた時は
スルーしようかと思ったのですが
「なんで私は2回も観に行ったのか?」が気になって
(あまり映画館で何回も観るたちじゃないので)
平日にとった夏休みに行くことにしました。

もぎりで特典とやらのシールをもらった。
どこに貼ればいいのかな?


私みたいな、当時を懐かしむおばちゃんが多いのかと思いきや、
若い女性や男性の友人同士?カップル?などもちらほら。
平日の昼間にしては思ったより観客が多く
半分はシートが埋まっていました。

観終わったあと、
迷わずパンフレットを購入。
装丁(特に綴じ)が素敵です。

いや〜
余韻がすごくて。
時間が経てば経つほど
頭の中を「ブエノスアイレス」が占める割合が増えて。

終わったその足で
竹橋の東京国立近代美術館に
「ゲルハルト・リヒター展」を
観に行ったんですが
頭の片隅に「ブエノスアイレス」が居座るもんで
展示最大の目玉である
「ビルケナウ」をうっかり観過ごしそうになるほど。
(出口直前で気がついてよかった!)
鑑賞ものは1日1つまでにしないといけませんね。
欲張っちゃいけない。

なんで25年前、私が2回も観に行ったのかわかりました。
この余韻なのだと。

セリフが少なく、説明もないのに
目線や表情で交わされる感情の行き来。
クリストファー・ドイルが撮る色の温度、空気感。
主演のトニー・レオン、
レスリー・チャン、
チャン・チェンの
だだもれる魅力。
(主演というか、ほぼこの3人しか出てこない)
終わった後のやるせなさ。

それからいろいろ検索したところ
この映画のために約4,000分もの
膨大な撮影が行われたことがわかり、
かなり試行錯誤の上にできた映画であったことがわかりました。
そのカットされたシーンの一部や
制作のエピソードが収められた映画(?)のDVDがあると知り
買ってしまいました。

25年前と違うこと、
それは今はもうレスリーがこの世にいないことです。
映画公開5年後の
2003年に、
レスリー・チャンは
自ら命を断ちました。

かつてアジアの至宝と呼ばれた
レスリーの魅力は生き生きと
映画の中に閉じ込められたままです。

余韻が深いのはそのせいもあるのかもしれません。

また、1997年は香港返還の年でもあり、
2019年の民主化デモも記憶に新しいところ。
現在は文化や芸術などの表現にもかなり規制がある模様です。
「ブエノスアイレス」のころが
香港映画の最後の煌めきになってしまうのでしょうか。

今年、こうしてウォン・カーウァイ監督の作品を
再び映画館で観れたこと。
レスリー・チャンを思い出したこと。
よかったです。

昨年公開の韓国映画
「チャンシルさんには福が多いね」を観たら
なんと、レスリー・チャンの幽霊が登場しました。
(演じているのは韓国の俳優さんです)
亡くなって20年近くたつのに、
韓国でも愛されているんだなとわかりました。

2ヶ月たってまだ頭の片隅には
ブエノスアイレスが居座っています。
なんとなく中国語を勉強したい今日このごろです。

さて、「恋する惑星」が好きだったな〜
という方も、
やっぱり「欲望の翼」だよね
という方も、
金城武が好きだったわ〜
という方も、
まだ各地でウォン・カーウァイ4Kレストア公開中のようですよ!
公式HP→https://unpfilm.com/wkw4k/