Ora Orade Hitori Igumo

2021-08-28

ここ2年ほど、岩手の実家に帰っていません。
電話と宅配便のやりとりが続いています。
以前、母に貸した本が野菜やらお菓子やらと一緒に送られてきました。

「おらおらでひとりいぐも」
若竹千佐子 著
55歳で小説教室に通い始めた主婦の
63歳でのデビュー作品が芥川賞を受賞した、と
2018年当時話題になりました。
著者が岩手出身で
作品の中に「東北弁」がちりばめられている
ということで読んでみたくなり
受賞後本屋に行ったところ
全然手に入らず、
人気なんだな〜と思ったのを覚えています。
昨年には映画にもなってますが
まだ観てないです。いつか観たい。
本を手に入れたところで
いろいろと忙しくなり
積ん読状態になってたところ
実家の母との話題になり、いったん貸しました。
で、手元に戻ってきたので
改めて読んだところです。

内容は裏表紙のような感じでして

タイトルは宮沢賢治の詩
「永訣の朝」の中の一文
からとのことですが、
芥川賞受賞当時、メディアで報道されるたび
アナウンサーやナレーションの方が
読みづらそうにタイトルを
紹介していたのを覚えています。
「いぐも」をどのようなアクセントで読めばいいのか
東北の人でなければわからないだろうと思います。
そもそも「も」ってなんでしょうね。
もちろん岩手ではたくさん聞いてきたし
自分も使った覚えのある語尾ですが
訳してみよ、と言われると
なんて言えばいいのか。
この他にも
「〜いぐがら」
「〜いぐおん」
「〜いぐもの」
などの語尾をつけられるかなと思うんですが
どれも訳しは難しいものの
微妙なニュアンスで使い分けていた気がします。
本文は標準語と方言が溶け合うように入り混じっていて
私としてはすごく懐かしくなる表現がいっぱいあるんですけど
東北弁に馴染みのない方は読み進めるのが辛くないか?
と思うほどです。

主人公の桃子さんは74歳という設定。
東北出身で20代前半に家出して関東へ。
60代になり旦那さんにも先立たれ、一人で暮らすうちに
心の最下層から東北弁で喋る自分が現れてくる。
そのときの一人称が「おら」です。
ですが同世代のうちの母は自分のことを「おら」って
言っているのは聞いたことないんですよね。
90歳を超えた祖母世代が使っているかな?
で、思い出したのが30年ほど前
私が中学生だったころ。
もちろん自分のことを「おら」なんて言いません。
思春期に入り「方言」がダサいと忌み嫌うお年頃かと。
ただ一人、同級生で一人称が「おら」の女の子がいたのです。
両親が教師のご家庭で、頭がよく、スポーツ万能。
スマートで目鼻立ちのすっきりとした
田舎の中学校では「都会的」な印象の
彼女の一人称が「おら」。

なして?なして、S子ちゃん
自分のことオラって言うの?
いつもそう思ってましたが、
ついぞ聞いたことはありませんでした。

方言ギャップといえば、
もうひとつ印象的なのが
20代前半、岩手の企業で働いていた時
一つ上のとても美人で大人っぽい先輩がいたのですが
あるとき、仕事で困ったことがあったらしく
「なじょすっぺ〜」(どうしよう)と
ため息をついたのです。
こんな美女からおばあちゃんのような方言が!
そのギャップが彼女の美しさに
磨きをかけているように思いました。

今、実家にも帰れず
方言に触れていないので
若干飢えてます。
つい最近、とあるラジオ番組のゲストが
北海道出身の大御所ミュージシャンで
話している時に「ちょすな」と言ったのです。
「ちょすな…ちょす…ちょす!」
久しぶりに聞いた単語に
ぶわわわ〜と方言への愛着が溢れてきました。
と同時に、北海道でも「ちょす」って言うんだ、と。
検索したら北海道ほか
おとなりの秋田、新潟でも使われているんですね。

ちなみに「ちょす」は
触る、いじるといった意味です。

だいぶ脱線しましたが
「おらおらでひとりいぐも」。
岩手から東京へ出てきて
関東暮らしが長くなった私も
老後を考えると主人公桃子さんと
ほぼ変わらぬ状況になるであろうと
察しがつきます。
そんなとき、私の心の奥底から
「おら」な自分が出てくるのかなと思うと
孤独な未来もまたよし。
と思わせてくれるいい本でした。

50代以上の女性にぜひオススメしたい本です。